チラシ印刷は“オンデマンド×部数調整”で無駄を削る──小ロットから段階配布までの実務ガイド

「今すぐ必要な部数だけ」「配布の反応を見て追加で注文」「店舗ごとにデザインを少し差し替え」。チラシの現場では、こうした柔軟な運用が成果に直結します。

オンデマンド印刷は、データをそのまま出力するデジタル方式のため、部数調整や短納期に強く、修正にも素早く対応できるのが利点。一方で、オフセット印刷と比べた色・用紙・加工の選択肢や、価格の変動、入稿データの作り方には注意点もあります。

本記事は、チラシ・フライヤー制作を想定し、オンデマンド印刷の部数調整の考え方、注文から入稿・修正までの流れ、オフセットとの比較、サイズや用紙（kg）の選び方を体系化。紙媒体＋Webを横断した集客導線の作り方まで、実務で役立つ判断軸をまとめました。

なぜオンデマンド印刷がチラシに向くのか

少部数・短納期・差し替えに強い

オンデマンド印刷は、版を作らずデータから直接出力するため、10〜100枚の小ロットや今日中に欲しいといった納期に適しています。部数の増減や文言の修正も、データ差し替えで即対応しやすく、A店とB店で価格やクーポンを変えるなどの可変にも向きます。

試作→本番の二段階運用が組みやすいのが最大の強みです。

在庫ロスを抑える“必要なだけ”の運用

大量に刷って余らせるより、まず少部数でテストし、配布の反応を見て追加注文するほうが総額の最適化につながります。季節商材や価格改定の多いメニュー表・キャンペーン告知などは、オンデマンドの段階配布が合理的です。

注文フローがシンプル

WEBからサイズ・用紙・部数を選択→データ入稿→自動プリフライト→校了→出力→発送という流れが一般的。納期は受付完了時刻で確定するため、入稿は余裕をもって逆算します。

オンデマンド印刷とオフセット印刷の比較

画質と色の再現性

オフセット印刷はインキの網点再現が安定し、大部数での色ブレが起きにくい一方、初期コスト（版代）がかかります。オンデマンド印刷は最新機でかなり改善していますが、ベタ面のムラやテカリ、微細なグラデーションで差が出る場合があります。

写真中心の大部数やポスターはオフセット、文字や図版中心のフライヤーやテスト配布はオンデマンドと使い分けるのが現実的です。

部数と単価の分岐点

概念的には、数百〜数千部を超えるとオフセットの単価が下がりやすく、数十〜数百部ではオンデマンドが優位。追加の増刷や店舗別の差し替えが想定される場合は、オンデマンドで“必要量×複数回”のほうが総額で得になることも多いです。

用紙・加工の対応範囲

用紙はコート紙／マットコート／上質紙が基本。オンデマンドは一部の厚物やエンボス系で通紙性の制約があり、PP貼りやスジ入れ、ミシン入れなどの加工は可否を事前確認。オフセットは加工自由度が高い反面、納期が延びる傾向があります。

部数調整の設計術（段階配布で成果を最大化）

需要予測から“初回ロット×追い焚き”へ

初回はA4片面カラーで300〜500部など小さく始め、配布チャネル別に回収率を測定。反応の高い導線に向けて二回目・三回目を追加します。週末前の増刷や、イベント直前の文言差し替えにも、オンデマンドなら短時間で対応可能です。

チャネル別・エリア別の可変デザイン

店舗別・地域別で価格やクーポン、営業時間を差し替える設計にしておくと、効果が継続的に上がります。共通の骨格デザインに可変エリアを作り、テキストのみ差し替えで回すと、修正コストとミスが減ります。

余部と在庫の考え方

配送事故・誤配・急な差し込みに備えて、注文部数の3〜5％を余部として見込むと安全。余った在庫は次回改訂時の試作や色合わせに活用します。

デザインとデータの最適化

サイズと面付け（mm基準で設計）

A4（210×297mm）、A5（148×210mm）、B5（182×257mm）、B4（257×364mm）がチラシの定番。塗り足しは上下左右3mm、安全領域3mmを確保。面付けの都合で断裁ロスが出るため、規格サイズの採用が納期と価格の安定に効きます。

画像・文字・色の設定

写真は印刷用350dpi相当、黒文字はK100、ベタ面の黒はリッチブラック（例：C30 M30 Y30 K100）など入稿規定に合わせます。微細な線やグラデーションは、オンデマンドでは飛びや段差が出ることがあるため、太さと階調の見直しを。

フォントは埋め込みまたはアウトライン化し、PDF/X-1aでの入稿が安全です。

差し替え前提のレイアウト

価格や日付、住所など変わる要素を一箇所にまとめ、デザイン上も見つけやすく。表記ゆれ（mm、kg、半角/全角、電話番号のハイフン）をテンプレで統一すると、修正のたびのミスが減ります。

注文→入稿→修正→納品の流れ

注文と受付の基準

WEBの注文画面で、サイズ・用紙・kg・部数・加工・納期を選択。受付完了のタイムスタンプで当日扱いの可否が決まるため、入稿は早めが鉄則。配送希望日と店舗の受け取り時間も逆算しておきます。

入稿データのチェック

テンプレートに合わせてトンボ付きで書き出し、リンク画像の解像度とカラープロファイル、塗り足しと仕上がりmm、フォントの埋め込みを確認。自動プリフライトで警告が出た場合は、該当箇所を修正して再入稿します。

校正と軽微修正

PDF校正で文字化けや桁ズレ、QRのリンク切れを確認。価格の数字やクーポンの有効期限はダブルチェック。軽微な修正はオンデマンドの強みで、同日内の差し替え対応がしやすい領域です。

用紙とkgの選び方

定番の三種

コート紙：光沢と発色が高く、写真メインのセールに向きます。マットコート：反射が少なく文字が読みやすい。上質紙：筆記性が高く、アンケートや申込欄付きに最適。用途とブランドトーンで選びます。

厚み（連量kg）の目安

A4チラシの定番はコート90kg／110kg／135kg。配布量と携帯性、折りやすさで選択します。郵送や折り加工があるなら110kg以下が扱いやすく、店頭置きやポスター寄りの見せ方なら135kgで腰を持たせます。

厚みの目安は、90kgで約0.08〜0.10mm、110kgで約0.10〜0.12mm、135kgで約0.12〜0.15mm。

加工の可否と注意点

オンデマンドは通紙の関係で、PP貼りやミシン、スジ入れの仕様に制約がある場合があります。加工を前提にするなら、オフセット印刷または表面のみオンデマンド＋後加工のハイブリッドの可否を相談します。

シーン別：こう使い分ける

新規オープン告知（短期集客）

A4／コート90kg／片面カラー。価格や地図の修正が多いため、初回500部→反応を見て地域限定で追加500部。LPのQRで効果測定し、訴求が刺さったエリアに再配布します。

飲食メニュー・価格改定（頻繁な更新）

A4またはB5／マットコート110kg／両面。月次で価格や写真を更新する想定で、可変エリアを右下にまとめ、差し替えを容易にします。部数は店舗別に300〜800部で小回りを利かせます。

展示会・イベント（期日固定）

A5／上質紙90kg／片面カラー＋記入欄モノクロ。会期延長や場所変更に備えて、前半は少部数で様子見、後半に増刷。来場者の動線に合わせ、サイズは配りやすいA5が有効です。

価格と納期の考え方

見積の読み方

オンデマンド印刷は、用紙・サイズ・ページ・部数で価格が決まり、版代がない分、部数を割っても総額の増分が小さいのが特徴。配送や梱包、予備日の費用も含めて総額で比較します。

オフセット印刷は初期費がかかる反面、数千〜万部で単価が下がるため、配布量によっては有利です。

スケジュールの逆算

配布開始日から、配送日→出力日→校了→入稿→原稿確定の日付をカレンダー化。オンデマンドはリードタイムが短いとはいえ、入稿締め時刻を過ぎると翌営業日扱いになるため注意。

よくある質問とつまずきポイント

オンデマンドで写真は綺麗に出る？

十分実用レベルですが、肌色の階調や大面積のベタは機種差が出ることがあります。事前に小ロットでテスト印刷し、色の当たりを確認すると安心です。

店舗別に部数も内容も変えたい

可変エリアを設計し、CSV連携やテンプレ化で差し替え運用に。注文画面で部数を店舗ごとに分けて指定し、納品先の分納設定も忘れずに。

mmやkgの指定が不安

サイズは規格を優先し、塗り足し3mm・安全領域3mmを厳守。kgは“配布の導線”で選ぶと迷いません。折りや郵送があるなら110kg以下、店頭で長く置くなら135kg以上が目安です。

まとめ

オンデマンド印刷は、チラシの部数調整と相性の良い方式です。少部数のテスト→反応を見て追加→店舗やエリアでデザインと部数を最適化──この循環を短いリードタイムで回せることが最大の価値です。

オフセット印刷と比較しながら、用途・部数・納期・価格のバランスで現実的な選択を。サイズ（mm）と用紙（kg）、データの入稿・修正の運用までを一つの流れに整理できれば、ムダなく、早く、成果につながるフライヤー制作が実現します。